2014年3月21日金曜日

作曲家自作分析会♯1開催報告

日仏現代音楽協会にとって発足2年目となる2014年最初の催し「作曲家自作分析会♯1」は、中目黒のジョイフル・スタジオにおいて去る2月22日に開催されました。告知期間1ヶ月ほどであったのにもかかわらず、会場の定員である30名に迫るご参加のお申し込みを頂いたため、間近にお問い合わせを頂いた数名の方はお断りしなければいけなくなってしまいましたことを、この場を借りてお詫び申し上げます。

分析会ではまず、この催しのために大阪より駆けつけて下さった松本直祐樹会員が、昨年11月に京都でご自身の指揮で初演されたフルート・ソロと室内オーケストラのための「Mistic Waves」という作品を例にとりながら、調和自然倍音列構成音の並び替えによって導き出される音高組織やフィボナッチ数列・ルカ数列等の応用、均斉置換や箱玉系セルオートマトンなどを援用したご自身の作曲技法について、プロジェクターとパワーポイントを駆使しながら解り易く説明されました。筆者としてはしかし、参加者のお一人として最前列で終始議論に加わって下さった作曲家川島素晴氏の「(録音で聴いた)作品がもつ類稀な美しさは、説明内容では殆ど解き明かされていないのではないか?」という趣旨のご発言と全く同じ印象を持ったのも事実です。言い方を変えれば、作品が湛えている音の "美" は言語による "説明" をはるかに凌駕していたとも表現できます。音楽作品のアナリーゼは、本質において言語とは異なる音楽芸術に、あくまで言葉や論理をもって迫ろうとする試みです。しかし時としてそれは言葉による音楽理解の限界を露呈させ、論理によっては到達し得ない美の存在をかえって浮き上がらせることもあります。それがまたアナリーゼの醍醐味とも言えるかもしれません。


次に、AFJMCの催しでは今や不可欠のスタッフとして毎回奔走して下さっている台信遼会員が、「Der Spiegel im Spiegel (鏡のなかの鏡)」という5重奏を取り上げました。ミヒャエル・エンデの同名の短編集にインスピレーションを受けたというこの作品は、昨年10月にヴェネツィア国際現代音楽祭にて初演されたということですが、元々はラジオ・フランスのAlla Breveという番組のために書かれたそうです。この番組は平日は毎日5分間ずつで、その中で約2分ずつ曲の一部を放送、その後週末にAlla Breve l'integraleという30分番組で曲の全体をまとめて放送するというユニークなものだそうです。そこで台信さんは2分程度に収まる楽章を5つ書き、しかし全体を続けて1曲として聴ける作品に仕上げられたということでした。台信さんは「自分はあまりロジックを重視して音楽を書いてはいない」と仰っていましたが、解り易くまとめられた譜例集をもとに、5つの楽章の中で受け継がれて行く幾つかの音楽的素材や、記譜された遅延(ritardando)の実例、そして12半音を3音ずつの4和音や2音ずつの6つの音程などに分割してハーモニック・フィールドを形成していく方法などが解説されました。台信さんらしい繊細で美しい響きの織物に、参加者の多くが魅了されている様子でした。

最後に登場したのは筆者夏田で、昨年12月にオペラシティ・リサイタルホールにおいて開催された個展のために作曲し、作曲者自身の指揮で初演した9重奏曲「2種の形象によるコンポジション ~J.S.B.へのオマージュ~」を分析致しました。この曲は題名に見られるように2種類の4音形象(figure) : ジグザグ型(α)と下行型(β)を様々に用いて書かれています。分析では、この基本形象からいかに楽曲の主部を成す15種類の楽想 ("主題部" 的なものからごく短い "モティーフ" 的なものまでその規模は様々です) が導き出されたか、そしてそれらの楽想がフィボナッチ数列を成す3-5-8-13といった数・比率や、調和倍音列音に由来する音高組織、4種類の3和音(長・短・増・減3和音)というようないくつかの一貫したアイデアによっていかに統御されているかを、配布した資料に沿ってお話しました。幾分駆け足で説明した後に録音をお聞かせしたのですが、このような場で改めて聴き直すと「ここはあまりうまく行っていないなぁ...」とか「あ、ここも振り間違えたからズレた... 」というような作曲と演奏両面の難点 (何せ自作自演ですからどちらにも責任を負っている訳です...) ばかりが耳につく気がして冷や汗ものでした。

会場には上述の川島さんや会員の神本真理さんのような第一線で活躍されている作曲家をはじめ、大学などで作曲を勉強されている学生さん達、あるいは画家や文学者、社会学者の方など様々な方々がいらして下さり、質疑応答も活発に行われました。
自作を人前で分析してみせることや他者の分析を聞くことは、自らの音楽語法や創作態度を今一度整理し、見つめ直すための最良の機会になります。日仏現代音楽協会ではこの「作曲家自作分析会」を今後シリーズ化し、様々な作曲家の皆さんにご登場頂きたいと考えております。皆様のご参加をお待ち申し上げております。(夏田昌和記)

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