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2014年11月21日金曜日

第2回日仏指揮法講座開催報告


日仏現代音楽協会発足後初めての協会主催企画として、2013年4月26日より3日間にわたり開催しご好評頂きました「日仏指揮法講座」。第二回目は、2014年5月3日~5日に杉並公会堂内スタジオ並びに渋谷ジョイフルスタジオにて開催されました。
第一回目に引き続き、1日目は講師の夏田昌和協会事務局長によるスコア•リーディングと楽曲分析のクラス。2日目、3日目は夏田、阿部による指揮の実技クラスという内訳でした。
今年の受講生は男性6名、女性1名の計7名。作曲科に在籍中の人、教育学を学んでいる人、活躍中のピアニスト、もうすでに指揮活動を始めている人など、意欲と才能溢れる各分野の若者達のエネルギーが結集し、充実したエキサイティングな時間となりました。
「フランスにおける伝統的な音楽家教育の理念である “musicien complet” (完全なる音楽家)の育成を理想として掲げた指揮法講座」という従来の目的の他、今回は私の希望でオペラアリアの伴奏指揮も課題に入れさせて頂く事にしました。というのも、私の敬愛する師匠であるメトロポリタン歌劇場首席指揮者のファビオ•ルイージさんが常々「聴く」事の大切さをおっしゃるのです。確かに、自分の生み出す音、書き記す音をよく聴くことも大切ですが、共演している他の奏者、特に歌手の演奏にじっと耳を澄ませて彼(彼女)と共に呼吸し、その音楽性を理解し、演奏しやすいコンディションを作り上げるにはどうすればよいか?と考え、思いやるのは、音楽だけでなく人間のコミュニケーションの基本でもあるように私には思われますので。
講座の詳細については、リポートを書いて下さった受講生の瀬川裕美子さんにお任せしたいと思いますが、昨年に引き続き受講された生徒さん達の上達ぶりに嬉しい驚きを覚えたり、それぞれの受講生のみなさんが抱える個人的な問題点や改善点と真摯に向き合い、また仲間達に刺激を受けながら短い期間の内に多くを学び成長してゆかれる様子に、教える立場の私が逆に色々と教えられたような次第です。
また、私の大先輩で長年の友人、心から敬愛する夏田昌和さんと共にこの講座を担当させて頂いたのは、勉強になるだけでなく個人的にもとても嬉しく光栄な事でした。夏田さんの、優しくユーモアをまじえた語り口ながらも、深く掘り下げた視点からの的確な且つ絶妙な指導ぶりにはいつも感心しきりです。
受講生のみなさんが、3日間のあいだに色々と考え、悩み、獲得した事が、それぞれの夢溢れる人生の糧に少しでもなっていれば、と思います。それにしても3日間の間に受講生達がみんなとても仲良しになっていたのは微笑ましかったです(笑)。またお会い出来る日を楽しみにしておりますね!みなさん、お疲れさまでした。
そして、「迷える」指揮(笑)にも文句ひとつ言わず、いや、時には優しくダメ出しをしながら連弾で難しい課題曲を楽々と伴奏して下さったピアニストの石井佑輔さんと神崎えりさん(時々助っ人として参加して下さった受講生の瀬川裕美子さんも!)、慣れない伴奏指揮に四苦八苦する受講生達に苦笑しながらも(笑)、優しく何度も美声を披露して下さったソプラノ歌手の吉川真澄さん、毎度ながら何から何まで運営のお世話をして下さった事務局の台信遼さん、ご来場下さった聴講生のみなさまに厚く御礼申し上げます。
阿部加奈子 (指揮法講座講師・指揮者・日仏現代音楽協会代表)






<講習参加者から寄せられたレポート>
 日仏現代音楽協会旗揚げ講座でもあり、もはや本協会メインイベントでもある第2回目の指揮法講座を受講させていただきました。受講生の立場で感想や実感を少し綴らせて頂こうと思います。

  受講生は、実際に指揮で活動している若い男の子たち。特に作曲家の方がほとんどでした。
 講座1日目はスコアリーディングと、午後は本協会のホームページに掲載されているドビュッシーの『牧神の午後の前奏曲』の詳細な分析(本当に詳細です!ドビュッシーが意識的か、天分でこの分析通りになっているのかはもはや問題ではありませんが、改めてドビュッシーの天才ぶりに心から感動してしまう、そんな分析です)も書かれている、作曲家の夏田昌和先生による的確な受講曲の楽曲分析。短時間の中で、受講生との対話を通しての、有意義な指揮法実践前夜でした。さて翌、翌々日は指揮のレッスン。講師阿部加奈子先生と夏田昌和先生は、芸大、パリのコンセルヴァトワールでも、同時期に共に学ばれているので(特にお二人共、中学生頃から永冨正之先生の門下生ということで、長い音楽仲間でいらっしゃるそうです)ベートーヴェン、ブラームスやドビュッシー、そしてヴァレーズに至るまで、さすがにお二人の息の合った充実の指揮のレッスンが、最後の1分まで精力的に続けられました。
  特に熱いレッスンとなったのは、ベートーベンとブラームスのシンフォニー。
何層にも折り重なる音楽の流れから、質量のある音をたった2本の腕でオーケストラから引き出すには・・・
 「まずは自分でこういう音が欲しいと心底願うこと!」
  先生方からしてみれば軟弱な?!受講生の身振りを見て、指揮のエネルギーを身体で体感させようと、先生方は時間を延長してまで熱血指導をしてくださいました。
 指揮者のファビオ・ルイージのアシスタントもされている阿部先生は、
 「“たった1拍を振るのにこんなに力を使っているんだ!”ってルイージさんの指揮をしている腕を触らされたのよ」
 と、それを再現する阿部先生の力強い腕の感触に受講生は、びっくり。何か気功の世界に一歩踏み入れたような場面も。
 「頭で理解していても、身体で理解しないと始まらない!」
こ、これぞ名言ですね。
 今回の指揮法講座では、女性の受講生は私一人で、ピアニストでの受講ということもあり、気恥ずかしさもありましたが、女性指揮者が少ない中、阿部加奈子先生にご指導いただけましたことは、本当に貴重なことでした。男性にはわかりにくい?!女性ならではの、手首が柔らかくなりすぎてしまう欠陥も、阿部先生は私にしっかり助言してくださいました。指揮者の手首がふにゃふにゃしていると、演奏家が音を出すタイミングを見失ってしまい、混乱させてしまうのですね。
音楽するという以前に、指揮というのは、演奏家とのコミュニケーションが音の始まりでもあり、最も大事なことだということを学びました。特にヴァレーズのオクタンドルの、オーボエソロの出だし・・・。ソロなので奏者に委ねていいものかと思いきや、
「ここのパートを吹くのに、どれだけオーボエ奏者が大変だか知ってる?すごいプレッシャーのかかる場面よ。オーボエって音を出すのに本当に大変な楽器なの。それを指揮者としても共に感じて指揮してあげなければいけない」
 あぁ、なんて配慮のない、冷たい指揮だったことか。それぞれの楽器の奏法、特徴まで身を持って勉強していくことも大事な指揮者の仕事なのですね。

 受講生それぞれが、良くも悪くも何か癖を持っていて、それが障害となって自分の音楽が表現できていないと見受けられるときには、先生方はそれを様々なアプローチでご指導くださいました。時には受講生の手を取り身振りを後ろから指導される場面も。かなりこれは有効だと思います。
中でもタクトを振らない左手の身振りについては、指揮のレッスンで最も重要な課題でした。
「では、歌いながら指揮をしてみたら・・・?」
----受講生の左手が、徐々に、自然に動き出す・・・
「そう、そんな感じでいいよ」
そのうちに、歌いながら指揮することが癖になってしまう受講生も・・・() 爆笑の場面でした! 
 他の受講生のレッスンを見ていると、何が課題なのかというのが結構わかる気にもなるのですが、いざ自分がやってみると、音楽にあった的確な身振りをすることがいかに難しいかということを実感します。
 そしてもう一つ、今回は受講生に更なる嬉しい訓練の場が提供されました。声楽家の吉川真澄さんをお迎えしての、オペラのアリア、レチタティーボ演習です。第2回目の指揮法講座、初の試みに、みんなドキドキ・・・。
  モーツァルトのレチタティーヴォでは、実際受講生がピアノで通奏低音の伴奏に挑戦しましたが、タイミングが遅いだの早いだので吉川さんを翻弄することとなり、更にアリアでは、受講生が吉川さんと殆どアイコンタクトを取らないまま?!マイペースで指揮を振り続けるという、厳しい状況に、結局会場は笑いの渦になってしまったのでした。   「誰も目を合わせてくれなかった・・・」と指揮法の打ち上げでの吉川さんの一言。()
 ごたごたになってしまう受講生の指揮に
 「心の中で声楽の人と一緒に歌って、呼吸して」
 と先生方のアドバイスのもと、なんとか事態は収束には向ったものの、かなりの課題を残したオペラアリア演習でした。やはり、オペラの指揮は難しい・・・。
そして最後になりましたが、伴奏をしていただいた石井佑輔さん、神崎えりさんにもお礼を申し上げなくてはいけません。特に、今回受講曲となった唯一の現代曲であるヴァレーズの『オクタンドル』は、難易度の高いピアノソロ版を弾ける石井佑輔さんの存在なしには勉強できない曲で、私もこの恩恵に預かり、この場でしか振れないであろうこの珍しい曲を指揮で勉強できましたことを感謝しております。
パリのコンセルヴァトワールでの指揮のクラスの体験談なども盛り沢山で、まるでその場に居合わせているかのような贅沢な、楽しい講座でした。
 ありがとうございました。
 瀬川裕美子 (指揮講座受講生・ピアニスト・日仏現代音楽協会会員)






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